ベネズエラ政府発行の仮想通貨ペトロ(その1)

連載解説

世界唯一の政府発行仮想通貨とその背景

 

 ベネズエラは、政府が仮想通貨を発行している唯一の国家です。
通貨の名称は「ペトロ(Petro)」で、特徴としてはベネズエラ産の原油に連動されていることです。

ベネズエラ政府は、2018年2月から行ったペトロのプレセールで4,000億円以上を調達したと発表しています。一国の政府が発行するのですから、詐欺(Scam)コインではない、ある程度信頼できるコインであると考えられがちですが、本当にそうなのでしょうか?
ペトロを知るためには、ベネズエラの特殊な(より正確に言えば崩壊寸前の)経済事情を知る必要があります。
ベネズエラがなぜペトロを発行したのか? 独裁政権が仮想通貨を発行した背景をシリーズでお伝えします。


独裁と汚職でデフォルト寸前のベネズエラ

 ベネズエラのマドゥロ大統領は独裁へのプロセスを順調に進めています。ベネズエラでは、7月に制憲議会選挙が実施され、マドゥロ大統領が率いる与党が勝利しました。
制憲議会は8月18日に通常の国会を停止し、権力を奪いました。これにより、野党が多数を占めていた国会は能力を失い、制憲議会は行政、司法、立法の三権を支配する独裁機関となりました。

制憲議会とは、一般的には、国会や裁判所などより上位の権力機関であり、通常の法律や裁判所などに影響されずに強力な権力で国家を運営する独裁的機関です。
制憲議会は、制定される国によって細部が異なりますが大きく2つのケースに分かれます。

戦争やクーデターで国家が混乱し、通常の法律や裁判では混乱を収束させることができない状況で組織され、強権をもって速やかに混乱を収束させることを目的に制定される場合と、失政により人気がなくなった与党が野党勢力を封じ込めるために組織され、その後の独裁行うことを目的にする場合です。今回のベネズエラのケースは後者です。

ベネズエラでは、マドゥロ政権の稚拙な国家運営と、破綻した経済政策などにより、政府と与党の支持率は地に落ち、国会は野党が多数を占めていました。このままでは次の選挙で惨敗が確実であるため、大統領と与党は制憲議会選挙を7月に強硬実施し、野党がこれをボイコットしたため与党派議員による制憲議会が成立しました。制憲議会は8月18日に国会を停止し、また裁判所と行政の上位に制憲議会を置いてこれらを支配し、事実上の独裁体制となりました。
現在、制憲議会は憲法改正を準備しており、9月に憲法改正案を提出する予定であると発表しています。

政権会議制定のような強硬策を可能とした背景には、軍や一部の権力者による「支持」があったためであり、マドゥロ大統領が有能でカリスマがあるからではありません。
ベネズエラではチャベス前大統領時代から石油利権に絡む汚職が蔓延しており、富裕層と軍部は私腹を肥やし、その富で権力を維持していました。 一方で、世界有数の埋蔵量を持つ油田から算出される石油は、ベネズエラに十分な外貨をもたらしていたため、腐敗した頼りない政府の下でも国民はそれなりに安定した生活を送る事が出来ていました。

しかし、2015年起きたアメリカのシェールオイル増産などによりに石油価格が暴落し、原油輸出に頼り切っていた輸出が激減し、ベネズエラ経済は一気に困窮します。

その2へ続く