ベネズエラ政府発行の仮想通貨ペトロ(その2)

連載解説

ベネズエラの経済史

 

(前回はこちら)

前回書きました通り、ベネズエラは石油輸出国です。
通常、産油国は経済的には豊かなはずですが、現在のベネズエラは経済危機に瀕しています。
危機的経済状況を打破するために、マドゥロ大統領は世界初の政府発行仮想通貨ペトロを用いて、同国のハイパーインフレに対抗しようとしています。
しかし、何故産油国がハイパーインフレを起こすのでしょうか? それを知るためにはベネズエラの特殊な経済史を理解する必要があります。


石油に支えられてきたベネズエラ経済

 ベネズエラは国内に世界有数の埋蔵量を持つ油田を複数持ち、石油で外貨を稼いでいます。
しかし、ベネズエラの石油資源は、埋蔵量は多いと見積もられているものの取り出すことが難しく、技術力のないベネズエラでは自ら効率的に採掘する事が出来ませんでした。1950年代からは、エクソンモービルやシェブロン等の国際石油会社(メジャー)と共同で国営石油会社を運営することで石油を採取していました。この方式は上手く機能し、特に70年代のオイルショック時などで石油価格が高騰した際には、莫大な利益を同国にもたらしました。一方で、資源で楽に生活できる同国では、石油以外の産業が発達せず、政府も産業発展には力を入れていませんでした。このあたりの構図はオイルで潤うアラブ諸国と同じです。 その結果、ベネズエラは、石油で潤う一部の富裕層と、貧しいその他国民に二極化していましたが、国自体は裕福であり石油で得た外貨で食料が輸入できるため、国民は飢えるほど貧困ではありませんでした。この中途半端な貧しさが同国の市場の特徴です。このような理由で、国家全体で経済に対するモチベーションが低いこともアラブ諸国と同様の構造です。


チャベス大統領登場

 飢えるほどではないとはいえ、裕福にもなれないという状況下では、一般国民が権力者や富裕層を敵視するのは当然です。このような背景があって1999年にチャベス前大統領が誕生します。チャベス氏は富裕層を非難し、社会主義を標榜して国民の支持を取り付け、圧倒的人気で大統領に就任しました。

強烈な反米発言が印象的だったチャベス大統領ですが、国内では人気が高く、高いカリスマ性を背景に強硬な政策を乱発し、同国を社会主義へと転換させました。教育・医療・住宅などを無償化するポピュリズム的バラマキ政策を行い、また同国のインフラを支えていた外国資本を強制的に接収して次々と国営化しました。これは石油関連も例外ではなく、同国の経済の屋台骨を支えていた国際石油会社の施設を強制的に接収したため、エクソンやシェブロンはベネズエラから撤退してしまいます。しかし、これらの政策は後に同国の経済を直撃する愚作でした。
外資を撤退させた後、自力で石油を採取できればまだよかったのですが、技術力のない同国の国営企業は、設備の維持が精いっぱいで、技術改良も新油田の採掘も行う事が出来なくなってしまいました。


ベネズエラの食糧事情

社会主義を目指すチャベス大統領は、食糧政策にも社会主義的政策を採り、石油で得られた豊富な外貨を用いてブラジルなどの近隣諸国から食料を買い付け、国民に安価で再販売し、国内の食糧事情の改善を試みました。
しかし、チャベス政権のこのようなバラマキ政策は、一時的な人気取りとしては大成功を収めましたが、長期的な視点では国内産業に大打撃を与えました。特に農業は壊滅的な被害を受けました。政府の輸入食料の販売価格が安すぎたからです。

例えば、ベネズエラ政府は、一定量の小麦を外国から100ドルで買い付け、それを国内では50ドルで販売します。差額の50ドルは政府が補填します。しかし、この50ドルという価格は、国内小麦農家にとって採算割れを起こす価格であり(もともと同国の農業は工業化が遅れていてコストが高かった)、外国製の安い小麦に太刀打ちできずに次々と農家が廃業してしまいました。

一般的には、このような政策は起こりえません。外国から食料を買わずに、国内農家から適正価格で買い上げて国民に配布すれば良いのですから。経済学部の学生でも知っているような当たり前の政策を採らず、政府によるダンピングと言っても過言ではない状況が発生したのは何故でしょうか?
そこには輸入や販売に関係する権力者の汚職が関係しています。
昔から輸入大国であったベネズエラでは、輸入に関する利権や汚職が蔓延しており、権力者の権力基盤を支える重要な収入源となっています。それは現在でも変わらず、輸入をやめて国内産業を育成しようという発想は権力者にはないのです。

今回は仮想通貨ペトロについては触れられませんでしたが、このようなベネズエラ経済の特殊性に対する理解なくして、ペトロを理解することはできないでしょう。退屈かもしれませんが、もう少々お付き合いください。

(その3へ続く)