ベネズエラ政府発行の仮想通貨ペトロ(その3)

連載解説

ベネズエラ経済の現状

 

前回はこちら

前回は、ベネズエラ政府が自国経済を壊滅させた経緯を書きました。

簡単におさらいをすると、社会主義を標榜していたチャベス前大統領は、国民の人気取りのために過度のバラマキ政策を行いました。その中には外国製品を税金で仕入れて、国民に仕入価格以下で売り、差額は税金で補填するという政策も含まれていました。この自国政府による外国製品のダンピングという史上例を見ない政策により、原価割れの外国製品(農産物を含む)に太刀打ちできず、国内産業は大打撃を受けましたが、輸入製品に関連する汚職や利権のためにこの政策は長年是正されずに放置されてきましたし、マドゥロ政権になった現在でも継続されています。


シェールガス革命と原油価格の下落

 不当に安い輸入品により国内産業が大ダメージを被っていたベネズエラですが、無尽蔵に湧き出す石油がもたらす外貨によって税収は安定していました。故チャベス氏が大統領に就任した99年は1バレル 20 USドル前後だった原油価格は、リーマンショック直前には1バレル140ドルまで上昇しましたし、08年のリーマンショックにより一時的に暴落したものの、その後は1バレル80ドルから110ドル前後で推移していました。この原油高がもたらす豊富な外貨は、国内産業壊滅による税収の減少を補って余るものであったため、また石油や輸入利権に絡む権力者と富裕層にとっては私腹を肥やす絶好の機会であったため、政府は国内産業を立て直そうとはしなかったのです。

しかし、2015年にアメリカのシェールガス革命が起きて事態は一変します。原油価格が1バレル30ドル前後まで急落したのです(現在では60ドル前後まで回復しています)。これにより、ベネズエラ経済は大打撃を受けます。

この時、中東諸国はオイルを増産するなどして対応しましたが、ベネズエラは増産が出来ませんでした。
前回書いた通り、チャベス大統領は、石油設備を運営していたエクソンなどの外国企業と敵対し、外資が撤退していたからです。技術力のないベネズエラは、自前で石油設備を新設することはおろか、更新することもできず、老朽化しつつある設備を維持するのが精いっぱいという状況だったからです。

さらに、チャベス大統領は徹底した反米政策を貫きアメリカとの関係を極端に悪化させ、ブッシュ、オバマ両政権から経済制裁を科されます。このような失政が重なった結果、ベネズエラの経済は急速に悪化しました。


マドゥロ大統領と現状

 チャベス大統領死亡後にその後継者となったマドゥロ大統領も、チャベス流の政策を継続しているため、状況は改善していません。しかも、トランプ米大統領は、オバマ前大統領よりも強力な経済制裁を同国に科しました。

外貨が急速に減少したため、食料品その他の生活物資を輸入する事が出来ず、また国内産業は農業を含めてすでに壊滅状態。このような状況で起こるのは、インフレーションです。ベネズエラの法定通貨ボリバルは、2017年に比べて1万分の1以下の価値まで下落しました。今年の年末までに100万分の1まで減少するとの予想もあります。

このような危機的状況にあっても、マドゥロ政権は有効な政策を打つ事ができず、場当たり的な政策を次々と発表しています。先日実施されたデノミネーション(デノミ:通貨単位の切り下げ)も突然の発表だったため、銀行側に準備期間がなく、新札の発行も間に合っていないため、混乱に拍車をかけています。
笑えない笑い話として、政府が国民に仔ウサギを配り、育てて食べるように指示したりもしました(失敗したようですが)。
2018年に入って食糧不足は深刻さをさらに増し、飢饉も発生しています。一部の報道では餓死者が急速に増加しているとも伝えられます。商店には食料がなく、略奪や暴動のニュースが連日報道されるほどです。

さらに、トランプ米大統領は先日、ベネズエラ政府や国営企業の新規借り入れや債券発行を米国企業が引き受けることを禁じるこれまでの制裁内容に加え、ベネズエラ国営石油会社PDVSAが売掛金を売却したり、資産を担保に資金を調達したりすることを禁じる制裁を追加しました。この制裁は、ベネズエラがロシアなどから外貨を調達することを妨害する意図があります。

これがベネズエラの現状です。

このような外貨調達に行き詰っているマドゥロ政権が目を付けたのが、仮想通貨なのです。

その4へ続く