仮想通貨のはじまり(その6)

深掘り解説

NSAによる金融機関からの脱却に関する論文

 ナカモトサトシがビットコインを発表するよりも遥か以前に、仮想通貨やデジタル通貨のアイデアを発表していた研究者は何人も存在しました、しかし組織として仮想通貨を研究していたのは、NSAが最初かもしれません。


原初のブロックチェーン

 NSA(National Security Agency、 アメリカ国家安全保障局)の情報セキュリティ研究グループは、How to Make a Mint: the Cryptography of Anonymous Electronic Cash というタイトルの論文を1996年に発表しています(リンク)。 最初はMIT(マサチューセッツ工科大学)のあるメーリングリスト登録者向けに発行され、次いでAmerican Law Reviewという専門誌に掲載されました。

 この論文に記された内容の一部は、非中央集権的なネットワークを用いて金融資産を移転することが可能な点など、ビットコインなどの現在用いられている仮想通貨に強い類似性があります。 ここで提案された Cryptography of Anonymous Electronic Cash (匿名の暗号化された電子通貨)は、次のような4つの主な特徴があります。
 1. プライバシー
 2. 利用者識別(なりすましを防ぐ為)
 3. 情報送信の完全性(情報の不変性と二重送金の防止)
 4. 支払い拒否の防止(情報送信後に支払い拒否が起こせない仕組み)

この仕組みは、ナカモトサトシがビットコインで用いたSHA-256アルゴリズムは使われていません、なぜならSHA-256はSHA-2規格であり、2001年に生み出さされたからです。 しかし、1993年に作られたSHA-1には準拠しています。 そして、彼等が主張した上記の4つの特徴はブロックチェーンの基本となっている特徴でもあります。 特に4番目は、トランザクションと同時に資産の移転が完了し特別な第三者の保証なく譲渡が安全且つ確実に行われる仕組みは、ブロックチェーンの重要な機能のひとつです。

※ SHAは暗号の規格であり、仕様はアメリカ国立標準技術研究所 (NIST) が発行しているFIPSという標準規格に準拠したものです。

ナカモトは2008年にブロックチェーンとビットコインの概念を発表しましたが、その22年前にはブロックチェーンと類似の概念は既に発表されていたことが解ります(しかも国家安全保障局から)。


また、この論文は、デイビット・ショーンに言及している点も注目すべきです。 ショーンは1993年にeCashを開発したことで後の仮想通貨の発展に大きな貢献をした人物であり、 まだインターネットが発達するよりも前に非中央集権的な金融システムと匿名性を持ったシステムを開発していました。 NSAの論文ではショーンを引き兄出しつつ「口座」という概念に対する挑戦を行っています。 銀行口座、証券口座、クレジットカードの引落しなどは、利用者の個人口座と密接に結びついていますが、NSAは「口座が第三者に管理されている状態」を克服するための仕組みに重点を置いています。 第三者が管理する口座を経由せずとも資産が移転できる点と、銀行や政府などの中央集権的な機関の存在を否定しているという面でもまた、今日の仮想通貨に直結する概念であります。
これを、個人ではなく国家機関に属するグループが研究し発表していた点も、仮想通貨の歴史の中では特筆すべき価値があることでしょう。